【相続シリーズ②】
遺言とは~種類と書き方~
【チェックリスト付き】

「相続対策」という言葉が一般的になってきましたが、その対応はお済みでしょうか?
相続税対策については、以前からさまざまな方法が取られてきており、また、最近は「家族信託」も話題になってきましたが、そもそも相続そのものについての知識が乏しいという声が多いようです。
そこで、相続をシリーズ化して記事を作成していますが、今回は2回目として「遺言」について分かりやすく解説をしていきます。
✓遺言をしたい方の悩み
- 遺言とは何か?分かりやすく解説して欲しい
- 遺言の書き方を知りたい
- 遺言の保管と有無の調べ方を知りたい
こういった疑問に答えていきます。
✓本記事の内容
- 遺言の内容と種類
- 遺言の作成方法
- 遺言の保管と有無の調べ方
この記事を書いている私は、民亊法務や企業法務について10年以上の実績がある行政書士です(仕事柄、相続に詳しい司法書士、税理士や弁護士との協業も多いです)。一般企業でも20年以上勤務し、平社員から執行役員までのさまざまな経験も併せて、法律に沿った内容だけに留まらず、依頼を受けたクライアントの立場に立った業務を実施しています。こういった私が、解説していきます。
遺言の内容と種類
1)遺言とは
遺言とは、遺言者(亡くなった段階で被相続人となります)の財産(非嫡出子の認知等の身分上の事項に関するものも含む)を、それぞれの相続人に対してどう残すかを示す、遺言者の意思表示です。
そもそも、民法では相続人の相続分を定めており(法定相続)、その通りに相続するのなら遺言は必要ありません。
しかし、土地建物など単純に分割ができないものや、想い出のある貴金属などで換金すべきでないと思うものがある場合や、遺言者と家業の苦労を共にしてきた(また今後も続けていく)家族と、そうでない家族に同じ率の相続をするのは心情的にも不公平であると思う場合などでは、相続人間の実質的な公平を図るという観点からも、遺言者の固有の財産の使い道を決めるのは「故人の意思」として当然であるという考え方からも、遺言ではっきりと意思を表明することは必要であり、また、それによって、不必要な相続人間の争いも未然に防ぐ効果もあります。
遺言の作成は、作成時の年齢にかかわらず、いつでも作成できます。また、訂正や取消し(撤回)もいつでも、何度でも自由にできます(最初から全部作り直しても構いません)。ただし、訂正や取消し(撤回)の方法は定められていますので、それに従う必要があります。
2)遺言を作成すべき例
上記のような、できれば遺言を作成すべきと考えられる例は以下の通りです。
- 遺言者に子がいない場合
- 遺言者に内縁の妻がいる場合
- 長男の嫁など相続人以外にも相続させたい場合
- 遺言書が再婚し、先妻との間の子と後妻が共にいる場合
- 相続人がいない場合
- 家業(農業や会社経営を含む)などで分割が難しい場合
- 相続人毎に相続内容を詳細に指定したい場合
- 団体や機関に寄付を行いたい場合 など
尚、家族に知らせていない子(いわゆる隠し子)がいる場合は、法定相続人になりますので、必ず遺言を作成してその存在を明らかにしなければなりません。
3)遺言の種類
遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があります。
自筆証書遺言
遺言者が遺言の内容の全文を手書きで作成するもので、財産目録についてはパソコンなどで作成しても構いませんし、財産を証明する登記簿謄本や通帳のコピーなどを添付しても構いません。
遺言書本体は必ず全文手書きが必要です。高齢だから、手が不自由だからなどの理由であっても、代筆は認められませんので注意しましょう(その場合は、他の2つの遺言を選択します)。
尚、遺言書本体、財産目録、添付文書の全てに自筆の署名と押印が必要です。遺言書本体には日付を忘れないようにしましょう。遺言は何度でも作成することができますので、日付の明確化が必要です。
メリット:費用がかからない、簡単に作成できる
デメリット:法的に不備な内容になりやすい、検認が必要(公証役場に預ける場合は不要)、破棄・隠匿・改ざんの可能性がある、本文は全部手書きが必要
公正証書遺言
遺言者が公証役場において、公証人に遺言の内容を話し、公証人が文章にまとめて作成する遺言です。法律知識や経験が豊富な公証人が相談に応じながら正確に作成してもらえるので、安全確実な方法です。障害や病気などで口や耳が不自由な場合でも、筆談や通訳でも公証人に内容を伝え、遺言書の作成をすることができます。
公正証書遺言の作成にあたっては、遺言者の署名だけは必要となりますが、それができない場合でも、公証人に署名を代書してもらうことができます。
また、遺言者が病気等のために公証役場に行けない場合は、公証人が遺言者の自宅や病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。
メリット:署名のみでよい(代書も可)、口や耳が不自由でも作成可能、出張作成も依頼できる、法的に不備な内容になることがない、検認が不要、原本が公証役場に保管されるので破棄・隠匿・改ざんのおそれが全くない
デメリット:費用がかかる(財産の価額による)、予め資料を準備して公証役場に出向く必要がある、2名の証人が必要(いない場合は公証役場で依頼できる)、内容を改定したい場合は同じ手続きが必要
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を書いた書面に署名押印をした上で、これを封印して、公証人に提出して作成される遺言です。自筆証書遺言とは違い、パソコンで全部作成しても、第三者が書いたものでも構いません。
秘密証書遺言は、作成の段階で公証人はその内容を確認することはできませんので、法律的な不備があっても指摘したり、訂正したりすることはできません。また、検認も必要です。
作成に公証人が関わっていても、作成された遺言書自体を公証役場では保管しませんので(自分で保管する必要)、改ざんされることはなくても、紛失の可能性はあります。
近年の法改正によって、自筆証書遺言・公正証書遺言の利便性がさらに高まり、秘密証書遺言の優位性はかなり低くなったと言えます(事実、ほとんど活用されていません)。
メリット:パソコンで全部作成できる、遺言の執行まで誰にも内容を知られない、偽造や改ざんを防止できる
デメリット:少し費用がかかる(11,000円)、公証役場に出向く必要がある、2名の証人が必要、自分で保管しなくてはならないため紛失のおそれがある、法律的な不備がある場合無効となる(自筆証書遺言の要件が認められれば、自筆証書遺言として有効)、検認が必要
遺言の作成方法
1)自筆証書遺言の作成方法
- 相続する財産をすべて書き出し、財産目録を作成(パソコンで作成してもOK)
- 財産目録として使う場合は、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを用意
- 1または2に全て署名押印を行う
- 遺言書本体をすべて手書きで筆記し、署名押印をする(鉛筆等は不可)
- 遺言書本体と財産目録とに同一性をもたせる(ステープラー等で綴じる、契印をする等、任意)
- 自身で保管する、または、公証役場に預ける(任意)
2)公正証書遺言の作成方法
- 予め、遺言する内容を決めておく
- 公証役場に支払う費用と必要書類を用意※
- 2名の証人を用意(いなければ公証役場に依頼)
- 公証役場に出向く(または出張依頼をする)
- 公証人に内容を伝え(相談も可能)、遺言書を作成してもらう
- 署名押印をして作成を完了し、原本を公証役場に預ける
- 正本と謄本を受領し、公証役場に手数料を支払う
- 正本と謄本を自身で保管する
※必要書類は下記の通りです。
- 遺言者本人の確認資料(印鑑登録証明書・運転免許証・マイナンバーカード等写真入りの公的機関の発行した証明書のいずれか一つ)
- 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
- 相続人以外の人に遺贈する場合は、その人の住民票(法人の場合は資格証明書)
- 財産に不動産がある場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
- 証人を遺言者が用意する場合は、証人(2名)の氏名・住所・生年月日・職業を記載したメモ
※公正証書遺言の作成費用は、財産の価額によって決定されます。
3)秘密証書遺言の作成方法
- 遺言書と財産目録を作成(パソコンで全部作成してもOK)
- 1に署名押印を行い、封印
- 公証役場に出向く
- 公証人が封紙上に日付と遺言者の申述を記載
- 遺言者と公証人及び証人が封紙に署名押印を行う
- 遺言書を受領し、公証役場に手数料(11,000円)を支払う
- 自身で保管する
遺言の保管と有無の調べ方
1)遺言の保管
自筆証書遺言の保管は自身で行いますが、公証役場に預けることができます。
公正証書遺言の正本と謄本の保管は自身で行いますが、原本は公証役場で保管しています。
秘密証書遺言の保管は自身で行います。
自身で保管する際は、紛失などのおそれがありますので、銀行の貸金庫などに保管すると安全です。また、作成に行政書士や税理士、弁護士などの士業が関わっている場合は、その士業に預けることもできます(特に、遺言執行人になってもらう場合は効率的)。
2)遺言の有無の調べ方
- 家族間で有無を確認
- 被相続人が生前付き合いのあった税理士や弁護士に問い合わせ
- 最寄りの公証役場に問い合わせ
- 自宅の部屋や銀行の貸金庫などを探す
公証役場に預けた自筆証書遺言や公正証書遺言の場合は、3までの段階で確実に見つかります。見つからない場合は、せっかく作成した遺言書の通りの相続が行われませんし、相続時に余計な手間や時間がかかりますから、遺言を作成した場合は、内容は秘密にしても、作成した事実だけは複数の家族に話しておくことをお勧めします。
遺言の作成は、相続を争族にしないためにとても有効な手段です。相続人や財産が限られている単純な相続であれば問題ありませんが、財産が多くて複雑、相続人が多い、分割内容で揉める可能性が高い、といった場合や、遺言の作成方法に不安があるという場合でも、専門家である士業の活用も検討してみてはいかがでしょうか。士業なら相続の相談から遺言の作成、執行、事務手続まで一貫で行ってもらうことも可能です。尚、遺言自体の作成は依頼しなくても、遺言作成の相談や、アドバイスだけを受ける、という方法もあります。
また、遺言の作成は、相続の内容を明らかにするということでもあり、そこから相続対策の必要性が浮き彫りになることがあります。相続対策は何もしなくても問題ありませんが、実施することで(決して違法であったり倫理的に問題があったりする方法ではなく)、しなくてもよい相続税の支払をすることもなくなり、せっかくの財産を少しでも多く親族に残すことが可能になり、また、予め準備をしておくことで、相続時の揉め事を防止する効果もあります。したがって、是非相続対策を行うことをおススメします。
まずは、現状を把握するために、自己診断のための相続対策チェックリストを用意しました。コチラから無料でダウンロードできます(PC推奨)。
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